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平成27年度(8)  前田綾子 緊張と弛緩について

(8) 9/12(土)  前田綾子
緊張と弛緩について

15のまなび 前田綾子さん「緊張と弛緩について」

第8回  9月12日(土)「緊張と弛緩について」
10:15~12:25 講座・ワークショップ
13:00~14:30 質疑応答

講師:くさぶえ保育園 園長 前田綾子先生

 15のまなび、第8回になる今回は第4回にもお越しいただき、「赤ちゃんは生まれてからどう重力に対応しているかを考えてみよう」というテーマで赤ちゃんモデルと一緒にお話と実践ワークを行ってくださった前田綾子先生をお招きしました。(前回の詳細は7月26日のブログを参照下さい)。今回も前回に参加していただいた親子さんも何組かご参加いただき、実際の赤ちゃんモデルと実践ワークを中心に行っていただきました。前回から2カ月近く経っていたため、前回と比べ赤ちゃんの変化と発達状況も良くわかる回となりました。

赤ちゃんは体も柔らかく、とても柔軟だと言う感覚をお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし最近は、赤ちゃんの体にもこわばりがあったり、緊張がほぐれてないこともあったり、柔らかいが筋力が少ない赤ちゃんもいます。そしてそのことを知らず問題意識を持っておられない方も多いと言うことが現状です。そのため、今回はその問題点に焦点を当てて「緊張と弛緩について」お話を頂きました。今回も月齢別の赤ちゃんモデルをお招きし、すぐに使える実践ワークが多く、親子さん、支援者ともにすぐに使えるものばかりでした。

 始めに行ったのは、大人の「金魚運動」です。固まった赤ちゃんの緊張を「ほぐす」ことは大切ですが、一言で「ほぐし」と言っても実は実際に行ってみるととても難しいのです。ほぐそうと意識するあまりほぐし手が緊張してしまい硬くなってしまいます。そのためまずは大人の私達がほぐされる側、ほぐす側の両方を体験し、ほぐされる赤ちゃんはどう感じるのか、また、ほぐす練習をしました。大人の金魚運動は大人の背骨を脱力するために行います。

まずは靴下を脱いで二人一組になります。順番としては出来れば年上の方が先にほぐす側になった方がいいということでした。次にほぐされる人は仰向けに横になります。そして、両腕を肩より上の位置で自分の自然な姿勢をとってもらいます。ほぐす側の人はほぐす人の足元に正座し、ほぐす人のかかとを両手でつつむように持ち、自分の膝の上に乗せます。後は自分の膝を横に振動させます。この運動は、お互いが脱力できるように行うため、先生は何時間行っても疲れないと仰っていました。実際歌いながら行われる先生の金魚運動によってほぐされた方はとても気持ちよさそうにされていました。しかし、言うは易し、やるは難し。参加者の皆さんも二人一組で行ってみると、先生とは何かが違う様子でした。やはりどうしても「ほぐそう」という意識が先に出てきてしまいほぐす側が固まっている様子でした。この運動のコツとしては方で揺らすのではなく腰で揺らす事、相手の背骨までほぐれるように意識する事、揺らす人は力を入れず、地球の中心に自分をストンと落とすイメージで行う事とのこと。しばらく行っていると皆さん徐々にコツや実際にほぐされるとはどういうことが掴めてきた様子でした。先生が仰ったようにこの運動に限らず人の手でほぐす、揉む、ということは何時間でもできます。しかしマッサージ機のような機械で受けるほぐしは15分が限界です。ここが人の手と機械の違いだそうです。金魚運動を行っても揺れにくい方はおられます。そのような人にはうつ伏せになってもらい、かかとを固定しおへその後ろを揺らす運動と、背骨を支えながら足を交差させて寝返りを誘導する運動をした方が良いとのことでした。この運動はもちろん赤ちゃんにも使えます。

では、実際に赤ちゃんに金魚運動を行ってみました。まずは2カ月の赤ちゃんです。まだ首が据わっていませんでしたが、金魚運動は首が据わっていなくても行える運動です。この際、赤ちゃんの服が繋ぎの場合は股の所を外してもらいお腹も全部出るようにします。最初に大人が膝を伸ばして座り、赤ちゃんを自分の膝のところに赤ちゃんのおへそが来るように仰向けに寝かせます。赤ちゃんの下にはバスタオルを敷き、頭の下には少し厚めに敷きます。初めての体勢に驚き泣いてしまう赤ちゃんも居るでしょうが、あわてなくて大丈夫とのことです。泣いて緊張すると赤ちゃんは顎が上がります。その際には頭の下のタオルを多めに敷きます。まずは赤ちゃんのお腹や足、腕をさするようにマッサージします。腕の部分はわきのところから手を入れ、肘までずっと伸ばすようにマッサージします。前田先生が仰るには皮膚マッサージは赤ちゃん、特に生後1か月~3か月の赤ちゃんの脳をとても刺激するため効果的とのことです。この際、冷たい手で触っては赤ちゃんがかわいそう、と思われる方も居られるかもしれませんが、逆に冷たい手で触ることで脳への刺激が多くなり、風邪もひきにくくなるとのことでした。向き癖のついている赤ちゃんや泣いている赤ちゃんは顔を横に向けることがあるかもしれませんが、この運動は顔をまっすぐに向けないと効果は無いそうです。そして、お腹や腕をなでながら大人のひざを揺らします。歌を歌いながら行うと気持ちも楽しくリラックスしやすそうです。振動に慣れてきたら赤ちゃんの太ももを支えながら大人の膝をあげてストンと落とします。この運動を教わったから毎日時間を掛けて行わなければいけない、というわけではなく、赤ちゃんが嫌がらない程度に毎日ちょっとずつ行ってあげるのが良いとのこと。赤ちゃんと触れ合う事も大切ですが、お母さんは家の事や他の事などやることはたくさんあります。そのため空いた時間にちょこっとやって親子でリラックスする、という意識の方が親子共に楽しめそうでした。

赤ちゃんは最初、筋力はほとんどありません。産まれてから徐々に筋力を付けていきますが、それに伴って体も硬くなります。どの部位もバランス良く動かしているというわけではなく、普段よく動かす部位が出てきます。その部位の方が筋力も付くため筋肉の付き方、体の硬さにばらつきが出ます。そのばらつきのまま放っておくとゆくゆくは体の歪みに繋がります。そのため、どの部位もバランス良く動かせるのが理想ですが、既にいつも動かす足が決まっている、顔を向ける方向が決まっていると気付いた時はよく動かす方を止めてみるとのことでした。実際、2カ月の赤ちゃんは仰向けにすると泣きながら片方の足ばかり宙を蹴っていました。しかし、蹴っている足を手で押さえると面白い事に、すぐにもう片方の足を動かし始めました。赤ちゃんは動きたいという衝動が大きく、動かせないとわかると直ぐに動かせる方に切り替えるようです。暫く、いつも動かす方の足を止め、手を離すと両方の足を動かすようになりました。これには参加者の皆さんも驚いておられました。これで治ったわけではなく、少ししたらまた片方の足だけ動かすようになったため、普段から気付いた時にバランスを整えられるよう足をとめていけたら良いとのことでした。これもさきほどの金魚運動と同じく、毎日ちょっとずつ、なようです。
赤ちゃんの背骨が硬いと、寝付きにくかったり、また横に寝かせてもすぐに抱っこと泣いたりするなど育てにくさを感じます。すぐに抱っこと泣くのは、縦抱きの方が重力の抵抗が少ないからだそうです。本当は筋力をつけてからが良いのですが、ハイハイをしっかりせずにすぐに立ってしまいます。そうすると筋力を付けた事そうでない子は歩き方が変わってくるそうです。首が埋まっている赤ちゃんは首が硬くなっているので肩甲骨のところを開くようにほぐすことが良いとのことでした。

次は3カ月のお子さんです。今回のモデルさんは首が据わっており、体をしならせようと抱っこしても体を預けてこなかったため違う方法でほぐしを行ってもらいました。うつ伏せの状態で胸の下にタオルを敷きます。おもちゃで興味をそらしているうちに赤ちゃんの足を見てみるときちんと両方の足の指が床についていました。バランス良く動かしているようです。

4か月のお子さんは寝返りとずり這いができていました。前田先生が仰るには赤ちゃんの硬さを見るにはまずは股関節、次に背骨を見るのが良いとのことでした。ずり這いからハイハイは、良い姿勢で歩くための大切な過程です。ご家庭内でずり這いやハイハイを行うとフローリングで滑ったりします。驚かれるかもしれませんが野外、芝生のようなところでハイハイを行うのが良いとのことでした。その際には膝の出るズボンで行う事が必要です。そうすると芝生がちくちくと刺激し、赤ちゃんの危機管理能力が備わったり自分を守る術を学びます。大人はそう言った事をわかって子育てをしていくのが良いと仰っていました。
また、9か月のお子さんの時にも前田先生から子育ての秘訣が出ました。子どもは思い通りにならないと泣いて訴えます。その際、すぐに対応する事も大切ですが、なんでも思い通りになると子どもが思ってしまい、親を召使のように思う事があるそうです。子育てはあくまでも対等な関係であること、折り合いを付けていく事が必要になってくるとのことでした。もう一つの秘訣が、子育てにはユーモアが大切、という事です。子どもの事に真摯に向き合う事は大切ですが、煮詰まってしまっては余裕が無くなってしまいます。ある程度のユーモアを持って接した方が親子共に良い関係が作れるとのことでした。
運動面のケアで、四つ這いが出来にくかったり、バランスがあまり良くなくハイハイするお子さんには腕の運動で筋力を付けるためにも前回教えていたパラシュートや滑り台などの斜面に乗せるのが良いとのことでした。斜面だといつもと同じようには進めず、両方の手足を動かす必要が出てきます。その際、大人は子どもがひっくりかえらないように支える必要があります。

発達上、教えなくても出来ることが出来にくいのは体に硬さがあるからだそうです。この硬さをほぐすのに躍起になってしまっては親子共にしんどくなります。そのため先ほどの股のぞきにしても遊びの中、楽しい時間の中で「ほぐし」を取り入れていけるのが良いと仰っていました。
しかし、親は一日中子どもと遊んでいれば良いわけではありません。家の中に居たら家事もしなければなりません。お客さんが来られたら対応しなければなりません。しかし、一歩外に出たらどうでしょう。例えばひろばのようなところに来たら、家事や来客など気にせずに子どもと過ごせます。前田先生は親が自分で育てる力をつけることが一番だと仰いました。その力を付けるためにも、家ではできないひろばのような場や、この15のまなびのような場を活用していけるのが良いとお話して下さいました。

午後は前田先生を取り囲みながら質疑応答の時間となりました。皆さん、支援者という立場もあるせいか、今回学んだ内容をどのように利用者に伝えていくか、育てる力を支えるため、どのように関わっていくか、という質問が多く出ました。継続的に利用者と関われる関係、一時的な関わりになる関係など状況は様々ですが、どちらにしても目の前の親御さんがお子さんを育てていかなければなりません。だからこそ、まずは親御さんを励まし、良いところを伝える事、そこにはお子さんの良いところも伝える、そして「もう少し頑張れるなら・・・」と一言付け加えていく、と教えて下さいました。それにより親に変化が見られるならば、子どもにとっても、とても大事な事です。実際はなかなかうまくいかなかったりすることもありますが、それでめげてはいけない、励ませるのは専門の人であり、そのための15のまなびが本当の姿なのではないか、と鼓舞する言葉を下さいました。司会者の言葉を借りるなら私達が励まされる回となりました。