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平成27年度(10)  北川 恵 アタッチメントの実践と応用

(10) 10/18(日)  北川 恵
アタッチメントの実践と応用

15のまなび 北川 恵さん アタッチメントの視点を親子の絆をはぐくむ実践に応用するために 

第10回 10月18日(日)「アタッチメントの実践と応用」
10:15~12:15 講演・質疑応答
13:00~14:00 講師を囲んでの座談会

講師:甲南大学 教授 北川 恵 先生

 第10回を迎える今回は甲南大学教授の北川恵先生をお招きしました。北川先生には昨年度の15のまなびにもお越しいただき、乳幼児期のアタッチメントの重要性についてお話を伺いました。(詳細は昨年度の事業報告書をご覧ください。)それに続き今年は、このアタッチメントの視点を親子の絆をはぐくむ実践に応用するにあたってお話してくださいました。

先生の活動は全国各地で行われ、先生のお話をお聞きしたいと言う熱意から、遠方からたくさんの方が参加されました。午前中はスライドショーと動画を交えながらわかりやすい説明をしてくださいました。百聞は一見に如かず。動画を見ると説明が更にわかりやすく入ってきました。

そもそも北川先生がアタッチメントに関心を持たれるようになった転機は高校生の時にアメリカでホームステイを経験されたところから始まったとのことでした。ホームステイ先での環境は今まで北川先生が“当たり前”だと思っていたことが違っており、そこで初めて「家族が違ったら“当たり前”も違う」ということを知ったそうです。それには良い面も悪い面もあるそうですが、家族の違いから人間の性格にどう違いがでるのか関心を持たれたそうです。その思いを持ちながら臨床心理の分野に進まれました。最初は精神科に勤務されカウンセリングを行っておられましたが、その中で親子関係の繋がりについて、もっと小さい頃から何かできなかったのだろうか、という思いを強められました。
ある学会で親子関係についての研究に触れる機会があったそうです。そこでの「親子関係」とは、しつけ、遊び等親と子どもの関わりの中に安心、安全を与え、アタッチメントを高めることを臨床の目標にし、そういったプログラムがアメリカで研究されている事をお知りになりました。先生は、その研究プログラムをアメリカで2週間受講され、子どもにも親にも安心と安全が必要だと感じられました。ご存じの方も居られるかもしれませんが、そのプログラムは「安心感の輪(circle of security)」と言われています。先生は子どもにも親にも安心と安全が必要だと感じ、日本で広めていきたいという思いから現在の活動に繋がっています。「安心感の輪」と各地の親子に届けるためにも年に一回、認定ファシリテーター養成講座も行われています。
「安心感の輪」は、養育がしんどい親子だけでなく、発達障害児や施設入所児などプラスαのサポートが必要な方達、親子たちにも役立ち、たくさんの人達に届いて欲しいと願いを仰っていました。

まず、最初に先生は「子どもに望む事を次から3つ選ぶなら?」という質問を参加者に投げかけられました。
「親に相談できるようになって欲しい」
「きょうだい仲良くして欲しい」
「大切な友人を作って欲しい」
「自分で問題が解決できるようになって欲しい」などなど、いくつかありましたが、そのいずれも親、きょうだい、友人との関わりと自分への自信に繋がるものでした。そして、それらは幼いころのアタッチメント関係から繋がってくるとお話されました。

ここまで何度か「アタッチメント」という言葉を出してきましたが、皆さんはどう解釈されているでしょうか。親子同士が見つめあって子どもをかわいいと思うような愛情的なことを想像されるかもしれません、しかしアタッチメントとは「attachment=くっつく」と言うことから「愛情」という意味は含まれません。愛情的な事は減密にはアタッチメントではなく、先生は「アタッチメントは本能」と言葉にされていました。それは、生命の危機や不安を感じる時に欲求が高まると感じるものであり、生きるための力、不安な時にくっついて安心したい本能だそうです。幼い子どもは自分に降りかかった危機や不安を自分で何とか出来る力が無いので危機回避のため、強くて大きな存在のくっつき安心を得る、と説明されました。例えば、赤ちゃんが何か不安や不快を感じると、泣いて抱っこしてもらう事で強くて大きな存在にくっつこうとするそうです。子どもにとって危機・不安を感じる状態とは、見知らぬ人の接近、知らない場所、養育者が居ないなどの外的要因と、飢え、乾き、不衛生、病気など内的要因がありますが、そのようなネガティブな情動状態になると強くて大きな存在にくっつこうとします。これが子どものアタッチメント本能であり、それによって危機や不安が取り除かれると安心を得るそうです。養育者とそのような関わりを繰り返すことで健全なアタッチメント関係が築かれるそうです。そして、健全なアタッチメントが形成出来た子どもはその先の人生において次の三点を獲得できるそうです。
①周りの人間との繋がりを感じられる。(例:振り向いた時に親が見ていてくれた など)
②自分や他人にプラスの期待を持てる。
人は皆、主観的に物事や事態を予測し、シュミレーションするそうです。しかし虐待を受けてきた子どもは自分に否定的であるため、予測、シミュレーションすることも否定的になるとのことです。
③自分の感情を整える力が育つ。
発達的に獲得していく力とのこと。例えば、子どもが自分で手に負えない感情の気持ちを養育者が縁どると腑に落ちるそうです。その上で対策を一緒に考えたり手に負えない気持ちに名前が付けられるようになり落ち着くと仰っていました。そのような関わりをくり返すことで子どもは自分の感情を整える力を獲得すると説明して下さいました。
また、子どもが持つ本能としてもう一つが「探索」だそうです。安心感があればもともとあった好奇心を発揮していろんなことを自分でできるようになるそうです。これら二つの本能が子どもの発達を進めていくのだと仰っていました。この「アタッチメント」と「探索」の様子は「安心感の輪」で例えられています。

「安心感の輪」の図を見た上で、子どもの安心基地になるためには、ということについてお話を頂きました。まずは、子どもが安心しているか不安になっているかを見ると仰いました。安心しているのであれば探索を応援しますが、不安であれば安心感を与えますが、これが一番大事で且つ、難しいと仰っていました。なぜなら、不安そうな気持ちを養育者は早く気持ちを持ちあげようとして気をそらしてしまうことが多いからだとお話し下さいました。しかし、その対応は子どもにとっては自分の不安な気持ちを分かってもらえなかった、否定された、と感じ、その気持ちを隠すようになることもあるそうです。まずは不安な気持ちに寄り添う事が大切だそうですが、その時に抱っこするなどスキンシップも大切ですが、いつも抱っこなどスキンシップ出来るわけではないので子どもの気持ちを汲み取り言葉を掛けることも大切とのことでした。
先述しましたが、子どもが不安そうならば安心感を与えることはわかっていても難しいそうです。子どもが助けを求めてくる事や探索の為離れていくことが苦手だと子どもは本当の欲求を隠し、自分で頑張り過ぎたり人に頼り過ぎたりするようになると仰っていました。また、人を頼り過ぎると自分の世界に入りにくく、常に見捨てられたら・・・という不安も付きまとっているそうです。
その際、子どもの欲求に対して自分の得意な欲求、不得意な欲求を分かっておくと良いそうです。自分の苦手を知っておく事で対応も変えられるとのこと。本当の欲求を隠したり出しにくくなっている子どもに対しては修正体験が必要なようです。転んだ子どもが平気そうにしていても「痛かったね」と声を掛ける、最初は無理をして「平気」と言って本当の気持ちを出さないこともあるそうですが、養育者が本当の欲求や気持ちを推測して返すことを何度も繰り返すことで徐々に子どもは本当の気持ちや欲求を訴えても大丈夫なのだと思えるようになるそうです。人の気持ちは百発百中でわかる事は無いので3割ほど、程よく分かれば良く、誤解があっても伝え合って軌道修正していけばいいのだと仰っていました。何事も遅すぎる事は無く、気付いたところから修正体験の始まりなようです。まずは関心を向けるところから始めると子どもの欲求が見えてくるそうです。

最後に、虐待ケースなど深刻なアタッチメントの問題がある親子のお話をして下さいました。深刻なアタッチメントとは「安全と安心の拠り所」である養育者が「恐怖の源」になる場合だそうです。怖い体験をして養育者にくっついて安心を得たいが、その養育者が恐怖の源だと養育者から離れたいという相反した気持ちが混ざり合い解決不能なジレンマに陥るそうです。そうした子どもは「親子の役割逆転」になることもあり、自分の不安を差し置いて親の不安を取る子どもになることもあると仰っていました。
子どもには欲求に応えてくれる養育者が必要ですが、子どもを支える養育者にも支えが必要とお話し下さいました。また子どもに適切な養育者が居ない場合は確保するところから始めることになるそうです。場合によっては学校の先生も対象になるそうです。また養育者の支えはパートナーであったり、地域の人、子育て支援者になることもあるそうです。このことから、先生は、アタッチメント対象は血縁とは関係がなく、継続的に世話をしてくれる人だと仰っていました。それにより自分の人生に真剣に関わってくれる人が居る、という安心感を得るようです。

先生のお話が終わった後は質疑応答と、昼食をはさんで感想や参加者自身のフィールドに照らし合わせて色々な話、相談が飛び交いました。

今回の講演で、先生は何度も「大きくて強い存在」という言葉を繰り返されました。子どもにも大きくて強い存在が必要、養育者にも大きくて強い存在が必要、その一部になれる可能性があるのが支援者として関わる私たちなのかもしれないと思いました。それと同時に、その私達にも大きくて強い存在が必要なのだと感じ、改めて15のまなびのありがたさを感じました。