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平成27年度(13)  灘 裕介 子育てに活かす作業療法視点

(13) 12/13(日)  灘 裕介
子育てに活かす作業療法視点

15のまなび 灘 祐介さん「子育てに活かす作業療法視点」

12月13日(日) 10:15~12:30 講座
12:50~14:00 ランチしながら講師を囲んで話しあい

「子育てに活かす作業療法視点」

講師:灘 祐介さん (有)あーと・ねっと 作業療法士

2015年、最後の15のまなびとなる今回は作業療法士・灘祐介先生を初めてお招きしました。先生は9年間、重症心身障害児・者施設に勤務されている中で、医療の中に作業療法士が居るのではなく、もっと気軽に必要としている方、困っている方と繋がれた方が良いと感じられ、現在はあーと・ねっとでフリーランスの作業療法士としてご活躍されています。また、外部でも活動され、支援学校や保育園、または検診の場でも活躍の場を広げられています。最初は就学前の子どもを見て来られ、その次は学童期の子ども達を見て来られました。そして今、最先端なのは乳児期だと考えておられます。乳児期を充実させていくのがとても大切だと仰っていました。乳児期は感覚が大切と言う視点もありますが、認知、という視点も大切だと考えておられます。

作業療法士、という言葉は聞いた事があっても、まだ馴染みが無い方も居られるかと思います。作業療法とは練習ではなく、子どもの場合、遊びを通して日常の中での困り感や苦手な事象の理由を分析し、解決に繋げるもの、と説明して下さいました。その支援は、「ボトムアップ」と「トップダウン」だそうです。「ボトムアップ」とはどこに行き詰まりを感じているのか見極め力の調節を学ぶ事、能力を伸ばす事であり、「トップダウン」は道具や環境を工夫し出来る幅を広げると説明して下さいました。例えば、「ハサミが苦手」という事象に対して、ハサミの使い方を教えるのではなく、ハサミが何で使えないのか見極めて教えていく、という事だそうです。日常のそういった事を一つ一つ解決していく事は子どもの安定に繋がるのだと仰っていました。苦手な事、困っている事には何かしら理由があり、それは誰に対しても存在するので特別な事ではないとお話されました。しかし、困っていても病院に行くのは垣根があったり気が引けたりされ、相談に繋がらない方が多いようです。だからこそ、たくさんの親御さんがもっと気軽に相談に来てもらいたいと思っておられ、メールなどでも相談にのっておられるそうです。

ここから、超最先端である乳児を月齢に沿って見ていきました。
新生児期
この時期の赤ちゃんが横になっているのは当たり前のように思いますが、仰向けで姿勢を維持できるのはヒトのみだそうです。それまで羊水の中に居たため、産まれたばかりの赤ちゃんは重力のかかる世界で視覚、聴覚、触覚など様々な刺激を爆発的に受けるようになるとのことです。この時期の「遊び」というのは、主に「自己身体の確認」だそうです。赤ちゃんがもぞもぞ動いている様子も実は、この自己身体の確認のためだそうです。赤ちゃんが動いたり自分の手を口に当てたりするのは、自分の輪郭を知るためとのことです。この、ばたばた、という動きにも実は規則性があり、その規則性から外れる事は脳障害だという研究もあるそうです。また、自分の体を床にこすりつけたり、抱っこしてもらったりする事でも自分の体を知る手がかりにするのだと仰っていました。

2か月ごろ
2カ月革命と言われる時期です。この時期の遊び(体の動き)は全身をくねらせたり、ねじらせたりすることでダブルタッチをします。ダブルタッチとは、腕を動かして何かに触った、触られた、という刺激であり、体性感覚系(皮膚、筋肉、間接)を通して自分の体に気付いていくそうです。発達障害はダブルタッチに繋がらないそうなので、この時期から発見し介入すると、その後の発達がだいぶ違うと言います。また、この時期から行動が予測的になり自己の確立が始まるそうです。予測的な例えとして、自分で動かした足がおもちゃにあたり、おもちゃが動くという事を理解して、おもちゃを動かすために足でおもちゃを蹴る、という動画を見せて頂きました。そうすることで徐々に外部対象へ興味が高まり目に頼って外部を捉えようとし、首の筋肉が発達していくそうです。つまり、視覚は運動の開始であり、この時期にお母さんと目を合わせること、行動に意味付けすることは大切だと仰っていました。

3~5カ月
この頃に入ると首もすわるようになります。今まで皮膚などを通して自分の体を知っていましたが、この時期から自分の手をまじまじと見る(ハンドリガード)ようなり、イメージだけではなく見て自分の体を認識するようになるとのことです。また、この時期の赤ちゃんは視覚的にも聴覚的にも優れ過ぎており他者の区別はもちろん、例えば2匹のチンパンジーの顔の違いもわかるそうです。(後に、この能力は必要無くなるため、能力としては下がるそうです)。これほど視覚的に発達していると外界への興味は高く、意図的に腕を伸ばす姿も見られると仰っていました。そのため、首がすわったら外界の広がりを広げていくことが大切だと説明して下さいました。

6~9か月
寝返り、ずり這いが始まり運動機能面が劇的に変化します。寝返りには段階があるとのことでした。最初は、バタンと場所の移動ですが、上達すると、その場で腕をすべり込ませて体を巻き込み移動を伴わない寝返りになるそうです。また、仰向けでも腕がどんどん上がるため、この時期に興味の持つ物を持たせてあげる事が良いと教えてくれました。そして、視点も高くなるので平面の探索から空間探索へ移行する初期段階になると説明されていました。

10か月
四つ這いの獲得時期ですが、灘先生は最近のお子さんは四つ這いの前に立つ子や、四つ這いでも四肢の使い方に左右差があるお子さんが多い事が気になっているそうです。その一つの要因として考えられる事が、畳文化からフローリング文化に変わった事だと指摘される方が居られるそうです。フローリング文化になった事で、床に物を置く習慣が少なくなり視線も床から上へ上がって、子どももそれに伴う環境になったのではないか、という考えだそうです。四つ這いの前に立つと背中を反る事になります。私達も先生に言われ体験しましたが、背中を反ると胸の前で手と手が合いません。つまり両手の動作がしにくくなってしまうのです。
また、この時期はまだお座りは出来ませんが、中にはお座りを固定させるものもあります。しかしこの時期に座らせてしまうと筋活動をしなくなり後々、椅子に座る姿勢維持ができにくくなってしまうとのことでした。このような道具の良い悪いではなく、一概に便利とは誰にとっての便利か、ということを考えて欲しいと仰っていました。

10~12カ月
伝い歩きや1人歩きができるようになります。移動面の発達も顕著ですが、実は手指の操作性も向上し、道具で道具に関われるようになるそうです。例えば、スプーンで食器を叩く、ということを仰っていました。また、手づかみ食べは、親にとっては少し困る事かもしれませんが、子どもにとって大事な経験とのことです。色々な触感のものを掴む事で五本指の発達が促されたり、掴んだ時に指の間から食べ物が出ることで五本指に分かれている事に気付くそうです。さらに、手で触ると、口に入れた時にどのような感じなのか見通しがもてるようになると仰っていました。

そして、産まれてきて一年の節目、12か月には歩き機能を獲得します。それにより両手がフリーに使えたり視野が変化し空間理解が広がったりするとのことでした。この状態が、人として本来の特性をようやく持てるじきになるため、人は12カ月早く産まれてくる、ということも仰っていました。
この人として本来の特性を獲得する1歳までに大切にしたい事として、灘先生は3つ挙げられました1つ目は身体を知覚する(身体図式の確立)ため生後2カ月ぐらいまでは意図的にアイコンタクトを取る事。2つ目は触る、握る、手指示など手先の機能を意識する事。四つ這いは手の感覚も広げるそうです。3つ目がコミュニケーションの土台となる他者との愛着形成。コミュニケーションは感情を伝播することから始まるそうで、親が子どもを遊ばせようとするのではなく、親が楽しむ事で、子どもにも楽しんでもらいたい、という気持ちだと仰っていました。午後の座談会でも出た話ですが、親が子ども役をする、という事はコミュニケーション形成の一つの切り口なのかもしれないと感じました。

ここまで、「身体」は運動機能の発達においての説明でしたが、「身体は」知的機能にも発揮されるそうです。そのことを、いくつか簡単なワークを入れて説明して下さいました。例えば、言葉は操作に伴う擬音語を使う事で覚えていく、何か説明する時に自分の体験談を踏まえて説明する、物を覚えるにも手を使って覚える(記憶する)、などがありました。また、「身体」は対人スキルにも繋がるとのことでした。例えば、身体の触れ合いは安心感を育む事、動きの中で相手に合わせられるようになること、自分の運動経験が相手の立場に置き換えて考えられる事、などがありました。これは他者理解にも繋がり非言語コミュニケーションだと仰っていました。
これらの事から、「身体」は様々な事の土台になるようです。その「身体」を育てるには、良く食べ、良く寝て、良く遊ぶ事、だと仰っていました。身体を使って遊んだことは脳の発達を促しますが、脳と身体を繋ぐ機関が「感覚」だそうです。だからこそ、子どもの時に感覚を通した遊びは大切であり、特に触覚(触れる)、前庭感(揺れたり)、固有受容感(筋肉を動かしたり)する感覚は身体を作るコアになると説明して下さいました。固有受容感という言葉は聞きなれませんが、腕の曲げ伸ばしのように関節の感覚を捉えることだそうです。この感覚は体を動かすのに大切であり、個人の運動神経と同じようなものと仰っていました。
これらをしっかりと感じ取り、統合される事で身体図式=体の中の身体の地図を確立させるとの事でした。この三つの感覚は生活や遊びの中で感じることが大切とのことで、例えば揺さぶりや高い高いは、この感覚を刺激するそうです。揺さぶりや高い高いは、コアを作るだけでなく、筋肉の張りを整え姿勢維持に役立つと教えて下さいました。最近は立て膝をする子や、足を組む子が居るそうですが、この姿勢は骨盤をロックさせてしまうと仰っていました。また、筋肉の張りと強さは違う事だそうです。張りとは弓が緩んでいる低緊張の状態だそうですがこれを発達させるのが揺さぶりだと仰っていました。大人の低緊張も増えており、特に女性は子宮も緩むため子どもも低緊張になりやすいのだと教えて下さいました。更に、遊びや生活の中で目を動かす事、目のブレは補正維持にも関わるそうです。しかし目を動かす事が苦手な子は後々、本読みや指差しが苦手になるため目を意識して動かせるような関わりが必要とのことでした。固有受容感を感じさせる遊びはマッサージやバランスボールなどが挙げられましたが、口を使った遊びも効果的だそうです。口を動かす事は鎮静作用と集中力を高める効果があるとのこと。そのため赤ちゃんは指吸いをしたり、スポーツ選手はガムを噛んだりしているそうです。生活の中で取り入れるならストローが効果的とのこと。吸う、吐く力は背中とお腹の筋肉も同時に使います。
このように生活の中でたくさん取り入れられる遊びがありますが、今の子どものたちは知育玩具に代表されるように、決まった使い方しかできないおもちゃに囲まれており、遊びを限定されていると仰っていました。おもちゃの変化や環境の変化は便利さを与えてくれたかもしれませんが、ここで再度「誰の為の便利さか」という投げかけをして下さいました。私達も便利さを選ぶ時にこの視点とメリットデメリットの視点をきちんと考える必要があると感じました。
子どもの環境だけでなく、親を取り巻く環境、社会そのものも変化しつつあることを指摘されました。少子高齢化がとまらない現代で親は高齢化と低年齢化の二極化しており、情報が安易に手に入る社会になったようです。困ったらすぐに検索するところは私達も思い当たる節があります。しかし、ネットはたくさんの情報があふれておりどれを信じたら良いのかわからず逆に不安になる親御さんも居られるとのこと。また、3K(きつい、汚い、危険)を避ける方も増えてきているようです。しかし、これらを避けるのではなく、正しい学びをする機会を作ることが大切だと教えて下さいました。最後に、大切なのは環境や人間関係が変わっていく社会の中で、本質として何が良いのか選択できるようになる事だと仰いました。

作業療法、という世界に初めて関わった方にもわかりやすくユーモアを取り入れながらお話し下さいました。今までのまなびと繋がるところも多く、所々で参加者の皆さんは納得されたり目からうろこ、というような様子も見られました。

今回は参加者も多く、昼食後の質問会は多くの意見、質問が飛び交いました。中には北海道から来られた方も居られました。灘先生が最初に仰っていた、作業療法士と繋がるには病院と言う垣根がある、垣根を無くし気軽に来て欲しい、という思いが今回のまなびの場に繋がったと思います。そして今回が垣根を超える一つの発信源になれば良いなと感じさせてくれる回でした。