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平成28年度(1) 中原規予 「子どもの発達と子育ての今」

「子供の発達と子育ての今」
6月18日(土)

講師:中原規予さん(理学療法士)

昨年度、たくさんの子育て支援の現場から参加して頂き、好評だった「子育て支援者のための15のまなび」が今年度も始まりました。今年度は昨年度同様宇治会場の他、“海の京都”でおなじみの舞鶴会場でも開催する運びとなりました。その第一回目を飾って下さったのは昨日、舞鶴会場でお話を頂いた中原規予先生です。第二回目となる今日は、昨日と同じテーマ「子供の発達と子育ての今」について宇治会場でお話を頂きました。昨日お聞きされた方は更に深まり、今日初めて聞いた方は自分の現場と照らし合わせながら話を聞かせて頂きました。
今回の宇治会場では15名ほどの参加者が来られました。京都、宇治市内だけでなく、滋賀や三重、遠くは愛知から足を運んで頂きました。子育て支援者と一口で言っても現場は様々で地域の子育て支援で活躍されている方の他、助産師、母乳育児、図書関係など多方に渡ります。
中原先生は、東京都内の子ども家庭支援センターで講話をされたり、病院内での療育、乳幼児家庭訪問事業などもたくさんされています。理学療法士の他、作業療法士、言語聴覚士は国家資格であり、医師の指示のもと、治療や療育を行っておられます。

お話の口火は「この先、子どもに対して“こういう風になって欲しいから今、こうしよう”と考えたことはあるか?」という投げかけでした。この問いは発達の一部に即して考えるものであり、理学的とのこと。特に子どもに対しての療育は遊びを通して行われます。子どもの発達と遊びについて「発達を見る七つの窓」を紹介して頂きました。
①手先の動き②親(大人)との関係③子どもとの関係④聞いてわかる言葉⑤話す言葉⑥からだの動き⑦生活習慣
これらは一つ一つを取りだして発達を見るのではなく、それぞれの要素を絡めて発達を見ていく、つまり、それぞれの要素が絡み合って発達が伸びていくのだと仰っていました。
発達とは“言葉や運動を覚えること”であり、生涯続くものですが粗大な動作の獲得は1歳未満で起こるそうです。そのため、乳児期の発達は大事とされ、特に立って歩くまでがメインで考えると仰っていました。“歩く”という動作は様々な姿勢コントロールの要素が統合して成り立っており、単純な筋肉の発達ではなく合理的な動きになるとのこと。最初の振り出しの足の力に筋肉はいらないそうですが、赤ちゃんはまだその振り出しが不器用なだけなのだと教えて頂きました。この運動の獲得について、今は動き出しが遅いと言われているそうですが、中原先生の現場経験から極端に二分化しているそうです。

次に運動発達におけるポイントについてお話がありました。歩行までの発達段階として、正中位指向、追視、寝返り、起き上がり、立ちあがり、つかまり立ち、伝い歩きがあり歩行を獲得します。特にお話があったのは最初の三つ。正中位指向とは、正中線に手足が近くなる事、つまり身体が丸くなる事です。赤ちゃんがよく指しゃぶりや足しゃぶりをする姿を見ますが、まさにあのポーズです。これは寝返りに繋がる動きですが、骨盤が柔らかい赤ちゃんはおしりが上がらず、腹筋が働きません。便秘にもなりやすいとの事。最近は腹筋を使わず、逆に身体を反る赤ちゃんが多いそうです。
赤ちゃんが追視をしやすいものはコントラストがはっきりしたもので、一番は白と黒。人の顔の中で眼球がその部分に当たるため、赤ちゃんは人の目を一番追いやすいとの事。追視が180度出来るようになると首が座った状態になります。首が据わると寝返りに繋がりますが、単純に首が座れば自然と寝返りをするわけではありません。先生のお話を聞いて、“寝返りが出来る”ことと、“寝返りをする”ことは違うのだと思いました。寝返りの最初の一歩は追視から繋がり、自分で興味を持って偶然動く事です。つまり、本人がやりたいと思ってやるのです。この本人が“やりたい”という気持ちが無いと動きは定着しないそうです。先生もよく「うちの子はまだ○○しなくて・・・」という相談を受けるそうですが、しないのは、その子がしたくないからであり、その気が無いなら無理にさせなくても良いとすがすがしく仰いました。つまり裏を返せば、その子が動きを獲得したいと思う環境ではない、動く必要のない環境だということ。例えば、「はいはいしない」のであれば、ハイハイしなくても良い環境=周りにおもちゃがいっぱいある環境、と言える事が出来ます。それならば片づければ良いだけ。また、ハイハイを通り越してつかまり立ちをする子も増えていると聞きますが、一度目線を高くすると子どもは高い目線が好きなためハイハイをもっとしなくなります。そのため股関節や腕の力が十分に発達せず転びやすくなります。普段から子どもの目線が過剰に高くならないよう、自分で目線を高くするまで待つ事が必要なのです。
抱っこやおんぶも後で話していただきましたが、抱っこやおんぶはスキンシップと移動の二つの用途があります。今は色々な抱っこひもやおんぶひもがありますが、どんな抱っこひもでどんな姿勢であっても、腰が据わる前の赤ちゃんに対して締め付ける時間が長ければ自分で姿勢を獲得しないとの事。どの発達段階のお子さんと接しているかで抱き方や時間を変える必要があります。本来であれば坐骨で姿勢が支えられるとバランスが取れ、体感が固定されます。そうすると手先の動作も良くなり、腹筋も鍛えられるとのこと。腹筋が鍛えられないとお座りが出来ません。その前に座らせられると腹筋が鍛えられず、自分で座れた気になってしまい、自分で座ろうとしなくなるので、揺れ遊びや、こちょこちょ遊びで腹筋を使えるようにする事が必要なのです。
人は、自分で必要性に気付くからこそ、自分がやりたいと思い、そう感じるかどうかが大切なのだという事や、この事に繋がって、子ども達との生活で注意したい事の一つとして“サービスをし過ぎない”というお話が心に残りました。子どもの欲求がわかるとそれに応えたくなり、適切に応えると子どもも安心感を覚えますが子どもの欲求に応える事は、何でもかんでも子どもの欲求に従うことではなく、時には子どもの欲求そのままに応えない方が子どものためになることもあります。そして、子どもの欲求を先読みしすぎてサービス過多になると子どもは欲求を出さなくなります。これでは運動の発達だけでなく全体的に人としての発達、成長が阻害されると感じました。
お母さんからの質問で多いのが「うちの子は遅れてる?」という質問だそうです。中原先生はこの質問に対し、「進んでいれば良い。滞ってなければ良い。」と言葉にされていました。そして、「発達の表を見て、その子を見ていない」と仰っていました。この言葉が、心に残ったもう一つの言葉です。運動の獲得でもそうですが、ハイハイが必要な時期に子どもがつかまり立ちをしたことが嬉しくて子どものハイハイの時期を見ずにつかまり立ちを促す事がまさにそうだと思いました。

次に、愛着のための触れ合い、赤ちゃんとコミュニケーションについてお話を頂きました。赤ちゃんは抱きしめられるという行為から安心感を覚え親から離れて遊ぶ事ができます。発達には愛着形成が欠かせませんが肌に触れること、揺れ遊びなどは子どもの心身の成長発達に効果的との事。揺さぶられ症候群や抱き癖のお話もありましたが、揺さぶられ症候群は脳が強い衝撃を受けた時に起こります。脳の外側は水が張ってありカバーしてくれているので触れ合いのための揺れであれば問題はないとのこと。抱き癖も、子どもを抱きしめてあげると安心感がたまれば子どもは外に向かうようになると言われています。肌の触れ合いの他、言葉がけもたくさんすると子どもの発語が豊かになり、また、子どもの見るものを共有できると子どもは“自分を理解してくれる存在が居る”と認識するそうです。

最後は質疑応答です。皆さんそれぞれの立場から気になったことが次々と出てきましたが、その中の一つで「ある事が出来ない時、“ちょっと前に戻る”、と聞くが、どういうことか」という質問がありました。“ちょっと前に戻る”=“ハードルを低くする”ということだそうです。例えば、片足立ちが出来ないのに、そればかりやらせては嫌になります。戻る事は発達が戻る事ではなく、発達を進めるためにも“ちょっと戻す”そうです。皆さんどの質問に対しても関心が高く、3時間では物足りない様子でした。
理学療法士、という方とは今の子育ての現場でなかなか気軽に繋がれないという印象が正直なところです。しかし、今回のお話を聞き、お母さんを始め、もっともっとたくさんの子育てに携わる方が繋がりやすくなれば良いと感じました。